小さな吸血鬼 リパリパ(饗宴×理髪師)
シーズンも変わり珍しくやる気に溢れた統括者がめでたく5段、フライングライオンに昇格して数日後、荘園物流からとある小包が届いた。
玄関口に置かれたハンターの目線からしても大きい箱の周りをぐるりと回った後、そっと持ち上げてホテルの大広間へと運ぶ。
「一体、何が届いたんですかねぇ…?」
不思議そうにカッターで封を切る統括者…こと、理髪師のリッパー。
今は試合が無いので凶悪な左手を外しているが刃物を持つ姿は仮面や発祥の噂もあって他のリッパーより不安を煽る。
封を切り終えて数々の緩衝材を掻き分けていると箱の中から"何か”が統括者の顔面(仮面か?)に飛び付いた。
「ウォアッ!!?なな、なん…!?!い"ったぁ!!」
一瞬の出来事で対処できず驚いて尻餅をつく統括者、幸い大広間はソファがたくさんあるので張り上げた声とは裏腹に痛みはほとんど無かった。
ボフッ、というソファの隙間から空気が抜ける音と共に落ち着きを取り戻し顔に飛び付いてきた何かを引き剥がすと目の前に見知った顔が顕になる。
「え…?メル…?」
「キュゥ…?」
高い鳴き声で返事をしたのは小さなメル、もといリッパーのUR衣装「饗宴の伯爵」に酷似した小さな生き物だった、一見するとサバイバー達が何が面白くて連れてるのか少々理解に苦しむハンターを模したペットに見えるが荘園の中で販売・交換できる品物の中に新しいペットが追加されたと言う報告はナイチンゲールから聞かされていない。
と、なると目の前にいる生き物はなんだろうか?とミニ伯爵を摘まみ上げたまま統括者は首を傾げた。
その動きに合わせてミニ伯爵も首を傾げるものだから何ともいじらしい、と内心感じていた所に本物の伯爵が蝙蝠の群れから現れ統括者の首筋を撫でる。
「ひゃぁ?!?!」
「ふふ…どうだ、愛しの弟よ 兄を模した使い魔は…良く出来ているだろう?」
本日、二度目のビックリに甲高い声を上げてしまう統括者を他所に伯爵はどこか得意げな声色でミニ伯爵を紹介した。
「メル!死神と似たような事、しないでください!それに使い魔って…そんなものを作っても試合にはどうせ持っていけませんよ!」
仲間内に姿すら見せない死神を引き合いに怒られ不服そうに目を細める伯爵に構わずミニ伯爵を胸に押し付ける統括者。
数が多く厄介なサバイバーには滅法甘いがハンターには大変厳しいルールでゲームを強いられる荘園だ、どうせ新しい事をしても直ぐに規制、もしくは却下されてしまうだろう。
荘園に招かれ、初期から記憶を継ぎずっと統括をしてきた理髪師には手に取るように分かる。
「何か、勘違いをしていないか弟よ?兄は別にこの使い魔を試合に、ましてやサバイバー共の目に触れる所へなど連れて行くつもりは、毛頭ない」
胸に押し返されたミニ伯爵を撫でながら伯爵は答え、ますます訳が分からず混乱する統括者の仮面下にある生身の顎へ指を添え、クッと上を向かせた。戸惑いで揺れる反転した中に浮かぶ白い瞳孔が赤い宝石の様な瞳をしっかりと捕らえる。
「お前を、ずっと観察するためだよ…愛しの…………」
仮面に入った亀裂が更に広がる音がした。
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